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東京高等裁判所 平成8年(ネ)2688号 判決 1999年8月31日

主文

一  破産者株式会社栄高破産管財人奥野善彦の本件控訴を棄却する。

二  原判決の主文第二項を取り消す。

三1  破産者株式会社栄高破産管財人奥野善彦とアンバサダー六本木管理組合法人との間において、別紙預金目録1、7及び14の各定期預金債権がアンバサダー六本木管理組合法人に属することを確認する。

2  株式会社三和銀行は、アンバサダー六本木管理組合法人に対し、金一八二一万二九六〇円及び右金員のうち、別紙預金目録1、7及び14のそれぞれにつき、各元本額欄記載の金員に対する各預入日欄記載の日の翌日から支払済みまで各利率欄記載の割合による金員を支払え。

四1  破産者株式会社栄高破産管財人奥野善彦とルイマーブル乃木坂管理組合法人との間において、別紙預金目録8ないし11の各定期預金債権がルイマーブル乃木坂管理組合法人に属することを確認する。

2  株式会社三和銀行は、ルイマーブル乃木坂管理組合法人に対し、金一〇〇〇万円及び右金員のうち、別紙預金目録8ないし11のそれぞれにつき、各元本額欄記載の金員に対する各預入日欄記載の日の翌日から支払済みまで各利率欄記載の割合による金員を支払え。

五1  破産者株式会社栄高破産管財人奥野善彦とジャルダン元麻布管理組合との間において、別紙預金目録6の定期預金債権がジャルダン元麻布管理組合に属することを確認する。

2  株式会社三和銀行は、ジャルダン元麻布管理組合に対し、金四一八万四〇〇〇円及びこれに対する別紙預金目録6の預入日欄記載の日の翌日から支払済みまで利率欄記載の割合による金員を支払え。

六1  破産者株式会社栄高破産管財人奥野善彦とアルベルゴ上野管理組合法人との間において、別紙預金目録5及び15の各定期預金債権がアルベルゴ上野管理組合法人に属することを確認する。

2  株式会社三和銀行は、アルベルゴ上野管理組合法人に対し、金四八八万六三〇七円及び右金員のうち、別紙預金目録5及び15のそれぞれにつき、各元本額欄記載の金員に対する各預入日欄記載の日の翌日から支払済みまで各利率欄記載の割合による金員を支払え。

七1  破産者株式会社栄高破産管財人奥野善彦と赤坂ベルゴ管理組合との間において、別紙預金目録13の定期預金債権が赤坂ベルゴ管理組合に属することを確認する。

2  株式会社三和銀行は、赤坂ベルゴ管理組合に対し、金三一五万二二六八円及びこれに対する別紙預金目録13の預入日欄記載の日の翌日から支払済みまで利率欄記載の割合による金員を支払え。

八1  破産者株式会社栄高破産管財人奥野善彦とアルベルゴお茶ノ水管理組合法人との間において、別紙預金目録12の定期預金債権がアルベルゴお茶ノ水管理組合法人に属することを確認する。

2  株式会社三和銀行は、アルベルゴお茶ノ水管理組合法人に対し、金六九三万四九九一円及びこれに対する別紙預金目録12の預入日欄記載の日の翌日から支払済みまで利率欄記載の割合による金員を支払え。

九  訴訟費用は、破産者株式会社栄高破産管財人奥野善彦と株式会社三和銀行との間においては控訴費用を破産者株式会社栄高破産管財人奥野善彦の負担とし、アンバサダー六本木管理組合法人、ルイマーブル乃木坂管理組合法人、ジャルダン元麻布管理組合、アルベルゴ上野管理組合法人、赤坂ベルゴ管理組合及びアルベルゴお茶ノ水管理組合法人と破産者株式会社栄高破産管財人奥野善彦及び株式会社三和銀行との間においては第一、二審を通じて破産者株式会社栄高破産管財人奥野善彦及び株式会社三和銀行の負担とする。

一〇  この判決の第三項ないし第八項の各2は、仮に執行することができる。

理由

一  甲事件並びに乙、丙、丁、戊、己及び庚事件の各請求原因の1の事実、別紙預金目録記載の各定期預金がされていることは当事者間に争いがない。

また、弁論の全趣旨によれば、乙、丙、丁、戊、己及び庚事件の請求原因2の事実が認められる。

二  本件各定期預金の原資、預金者の名義、管理状況等については、以下の事実が認められる。

1  参加人らのマンション、コート蒲田、高島平グロリアハイツ及び白金台グロリアハイツの管理規約及び各区分所有者と栄高との間の管理委託契約書において、管理費等について、次のとおり定められていた(甲第五号証の一ないし九)。

(一)  各区分所有者は、建物共用部分及び土地の通常の管理費を負担する。この負担は、管理員人件費、損害保険料、エレベーター設備その他機械の定期保守費及び動力費、廊下灯等の電力料金及び電球の取替費、共用部分の水道・光熱費、管理委託報酬、その他共用部分の維持管理に要する一切の費用である。

管理費は、毎月、管理者に支払う。

管理費の剰余金は管理預り金として積み立てる。不足した場合はそれを取り崩して充当できる。

(二)  各区分所有者は、毎月、修繕積立金を管理者に支払う。

修繕積立金は、一定の方法で積立て、管理者がこの管理に当たり、理由の如何を問わず払い戻さない。修繕積立金を取り崩して修繕費に充て、なお不足する場合は管理者は追加徴収することができる。

(三)  各区分所有者は、保証預り金として、管理費及び修繕積立金月額の三か月分に相当する額を建物引渡しを受けたときに管理者に預け入れる。

保証預り金は、建物引渡し日から五年後又は各区分所有者がその資格を失った場合に無利息にて返還する。区分所有者が管理委託契約に基づき管理者に債務を負担している場合は、管理者は任意に保証預り金をもって区分所有者の債務の弁済に充当できる。

(四)  庚事件参加人のマンション(赤坂ベルゴ豊栄)は、敷地の一部が借地であったため、同マンションについては、区分所有者は、以上の費用のほか借地料を毎月管理者に支払う旨定められていた。

(五)  給湯設備のあるマンションでは、各区分所有者は、毎月、給湯基本料金を管理者に支払う。

(六)  竣工から一定期間は栄高が管理者になるものとする。任期満了に際して特に集会の決議によって解任されない場合は、任期はそのまま更新継続するものとする。

管理者(栄高)の行う業務の範囲は、建物、その敷地及び付属施設の管理並びに環境の維持に必要な一切の業務であるが、その中には、経理事務として、管理費、修繕積立金、保証預り金、借地料及び給湯基本料金(以下、これらを併せて「管理費等」という。)の金銭の処理、収納保管が含まれている。

2  栄高では、各マンションの所在する場所の近くの金融機関に栄高名義の普通預金口座を開設し(参加人らの平成九年一月二八日付け準備書面によれば、アンバサダー六本木はさくら銀行六本木支店、アルベルゴお茶ノ水は住友銀行神田支店、ルイマーブル乃木坂は三菱銀行六本木支店、ジャルダン元麻布はさくら銀行八重洲口支店、アルベルゴ上野はさくら銀行上野駅前支店、赤坂ベルゴはさくら銀行赤坂支店である。)、区分所有者は管理費等をこの口座に振り込んで支払った。

右普通預金口座には、他のマンションの管理費等や栄高固有の資金等は一切入金されなかった。

栄高は、この普通預金口座から管理に要する諸費用と栄高が受領すべき管理報酬を支出し、管理費の残余金(剰余金)や修繕積立金等が一定金額に達したときにこれを定期預金にしていた。本件各定期預金はこのような管理費の剰余金や修繕積立金等を原資として、各マンションごとに別個の預金として、開設されたものである。

なお、通常の修繕の費用は前記の「共用部分の維持管理に要する一切の費用」として管理費から支出されるが、大規模な修繕を要する場合には、管理組合の総会の決議(管理組合がない場合には全区分所有者の賛否を問い、三分の二程度以上の賛成による。)を経て修繕積立金を取り崩して修繕費用に充てることとしていた。

また、大規模な工事を実施する場合には、区分所有者の負担を少なくするために、管理預り金(管理費積立金ともいう。)を修繕積立金に振り替えることも行われていた。修繕積立金に振り替えられると、その使途が大規模な修繕の費用のためだけに限定されることになる。(甲第二三号証、当審証人河野英己及び同岡本憲明の各証言、弁論の全趣旨)

3  目録1ないし11の定期預金及び目録15の定期預金については、以下のとおり、その書替前の預入時等に作成された書類の預金者の名義の欄にマンション名が付記されていたことが認められる。

(一)  目録1の定期預金

当初昭和五七年八月三〇日に預け入れられた定期預金が書き替えられたものであるが、右同日付けの定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には、「株式会社栄高 代表取締役大草一男」との記載のほかに、「アンバサダー六本木」とゴム印を押捺したと思われる方法によって付記されており(乙第九号証)、昭和五八年四月一四日付けの定期預金担保差入証(兼記入帳)の「おなまえ」欄にも「株式会社栄高 代表取締役桧垣順造」との記載のほかに「アンバサダー六本木」と手書きで付記されている(乙第二二号証)。

(二)  目録2の定期預金

当初昭和五七年八月三〇日に預け入れられた定期預金が書き替えられたものであるが(乙第四号証)、右同日付けの定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には、「株式会社栄高 代表取締役大草一男」との記載のほかに、ゴム印を押捺したと思われる方法によって「コート蒲田」と付記されており(乙第八号証)、昭和五八年四月一四日付けの定期預金担保差入証(兼記入帳)の「おなまえ」欄にも「株式会社栄高代表取締役桧垣順造」との記載のほかに手書きで「コート蒲田」と付記されている(乙第二二号証)。

(三)  目録3の定期預金

当初昭和五七年八月三〇日に預け入れられた定期預金が書き替えられたものであるが、右同日付けの定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には、「株式会社栄高 代表取締役大草一男」との記載のほかに、ゴム印を押捺したと思われる方法によって「高島平ハイツ」と付記されている(乙第一二号証)。

(四)  目録4の定期預金

当初昭和五七年八月三〇日に預け入れられた定期預金が書き替えられたものであるが(乙第四号証)、右同日付けの定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には、「株式会社栄高 代表取締役大草一男」との記載のほかに、ゴム印を押捺したと思われる方法によって「白金台グロリアハイツ」と付記されている(乙第六号証)。

(五)  目録5の定期預金

当初昭和五七年八月三〇日に預け入れられた定期預金が書き替えられたものであるが、右同日付けの定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には、「株式会社栄高 代表取締役大草一男」との記載のほかに、ゴム印を押捺したと思われる方法によって「アルベルゴ上野」と付記されている(乙第一一号証)。

(六)  目録6の定期預金

当初昭和五七年八月三〇日に預け入れられた定期預金が書き替えられたものであるが、右同日付けの定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には、「株式会社栄高 代表取締役大草一男」との記載のほかに、ゴム印を押捺したと思われる方法によって「ジャルダン元麻布」と付記されている(乙第一〇号証)。

(七)  目録7の定期預金

当初昭和五八年八月三一日に預け入れられた定期預金が書き替えられたものであるが(乙第四号証)、同日付けの定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には、全部が手書きで「株式会社栄高 アンバサダー六本木」と記載されている(乙第一四号証)。

(八)  目録8ないし11の各定期預金

当初昭和五七年八月三〇日に預け入れられた定期預金が書き替えられたものであるが、右同日付けの定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には、「株式会社栄高 代表取締役大草一男」との記載のほかに、ゴム印を押捺したと思われる方法によって「ルイマーブル乃木坂」と付記されており(乙第七号証)、昭和五八年四月一四日付けの定期預金担保差入証(兼記入帳)の「おなまえ」欄にも「株式会社栄高 代表取締役桧垣順造」との記載のほかに手書きで「ルイマーブル乃木坂」と付記されている(乙第二二号証)。

(九)  目録15の定期預金

当初昭和五八年八月三一日に預け入れられた定期預金が書き替えられたものであるが、同日付けの定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には、全部が手書きで「株式会社栄高 アルベルゴ上野」と記載されている(乙第一三号証)。

(一〇)  なお、目録12ないし14の各定期預金は、昭和五六年一二月四日(目録12及び13の各定期預金)又は昭和五四年一一月一二日(目録14の定期預金)に預け入れられたものが一旦解約されているが(乙第四号証)、解約前の「預金担保付借入申込書」の栄高の控えには、「おなまえ」欄に「株式会社栄高 代表取締役桧垣順造」との記載のほかに、手書きで「アルベルゴお茶の水」(目録12の定期預金の解約前のもの)、「赤坂ベルゴ」(目録13の定期預金の解約前のもの)、「アンバサダー六本木」(目録14の定期預金の解約前のもの)とそれぞれ付記されている。

また、当審証人河野英己及び同岡本憲明は、栄高がマンションの管理費等を原資とする定期預金をする際には、必ず預金名義にマンション名を付記していたと証言しており、甲第四八号証(豊栄土地開発の財務部社員であった田島正己の陳述書)には、栄高が一審被告京橋支店で開設した各マンションごとの定期預金については、他のマンション又は栄高の固有資産との混同を避けるために、「(株)栄高〇〇マンション(口)」というようなマンション名を入れた預金名義にした、との記載がある。これらの証拠と右(一)ないし(一〇)に認定した事実を併せ考えると、少なくとも書き替えられる前の当初の時点では、本件各定期預金を含め右のような栄高の定期預金の預金者の名義には各マンション名が付記されていた可能性が大きいということができる(もっとも、一審原告作成の調停申立書である丙A第二号証の一には、管理費の剰余金及び修繕積立金は適宜定期預金に振り替えられていたが、右定期預金については、「株式会社栄高」、「株式会社栄高〇〇マンション口」、「〇〇管理組合管理代行株式会社栄高」、「〇〇管理組合理事長〇〇〇〇」といった四種の名義が併用されていた、とあり、必ずマンション名が付記されていたとは限らないと思われる。)。

4  さらに、マンションの管理費の剰余金等を原資として栄高がした定期預金の名義については、以下の事実も認められ、多くの定期預金についてマンション名が付記されていたことが裏付けられる。

(一)  平成四年八月三一日に一審被告(京橋支店取扱い)に預け入れられた定期預金の定期預金通帳の名義は「株式会社栄高 アンバサダー六本木 代表取締役桧垣順造」となっており、その定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には「株式会社栄高 代表取締役桧垣順造」との記載のほかに、手書きで「アンバサダー六本木」と付記されている(甲第二五号証、丙B第一号証、乙第二一号証)。

(二)  平成四年八月二八日に一審被告(京橋支店取扱い)に預け入れられた定期預金の定期預金通帳の名義は「株式会社栄高 赤坂ベルゴ 代表取締役桧垣順造」となっており、その定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には「株式会社栄高 代表取締役桧垣順造」との記載のほかに、手書きで「赤坂ベルゴ」と付記されている(甲第二六号証、乙第一五号証)。

(三)  平成四年八月二八日に一審被告(京橋支店取扱い)に預け入れられた定期預金の定期預金通帳の名義は「株式会社栄高 荻窪マンション 代表取締役桧垣順造」となっており、その定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には「株式会社栄高 代表取締役桧垣順造」との記載のほかに、手書きで「荻窪マンション」と付記されている(甲第二七号証、乙第一八号証)。

(四)  甲第三〇号証の一の「預金担保付借入申込書」には、目録12ないし14の各定期預金の解約前の預金のほかに、「参宮前」と付記された預金も記載されている。

(五)  甲第三〇号証の二の一審被告宛ての「預金担保付借入申込書」の「おなまえ」欄には、「新都心マンション」、「北千住マンション」、「アルベルゴ上野」、「池ノ上グロリアハイツ」との付記がある。

ただし、これらの預金についての昭和五八年一一月二四日付け「定期預金担保差入証(兼記入帳)」(乙第二三号証)には、これらの付記はない。

なお、右の「新都心マンション」と付記された定期預金の定期預金証書には、「株式栄高新都心マンション」と記載されている。

(六)  甲第三〇号証の三の「預金担保付借入申込書」の目録3の定期預金には「高島平ハイツ」と、目録4の定期預金には「白金台グロリアハイツ」と、目録6の定期預金には「ジャルダン元麻布」といずれも手書きで付記されている。また、このほかに、「狛江マンション」と付記された定期預金が記載されている。

ただし、これらの預金についての昭和五八年一一月二四日付け「定期預金担保差入証(兼記入帳)」には、これらの付記はない。

(七)  乙第一七号証の平成四年八月二八日付け「定期預金印鑑届」には、「株式会社栄高 代表取締役桧垣順造」との記載のほかに、ゴム印を押捺する方法によったものと思われる「アンバサダー麻布口」との付記がされている。

(八)  丙C第一号証の一審被告(京橋支店取扱い)の定期預金通帳(平成四年八月二八日預け入れ)には「株式会社栄高元麻布 代表取締役 桧垣順造」と記載されている。

この定期預金の「定期預金印鑑届」(乙第一九号証)にも、「おなまえ」欄に手書きで「元麻布」と付記されている。

(九)  平成四年八月三一日付け「定期預金印鑑届」(乙第二〇号証)には、「おなまえ」欄に手書きで「コート蒲田」と付記されている。

(一〇)  丙F第二号証の一審被告(京橋支店取扱い)の定期預金通帳(平成四年八月二八日預け入れ)には「株式会社栄高赤坂ベルゴ 代表取締役 桧垣順造」と記載されている。

(一一)  調査嘱託の結果によれば、栄高の破産前に管理組合が結成されていたため、破産前に栄高から定期預金等の返還を受けたマンションの定期預金の名義は、次のようなものであったことが認められる(ただし、これらは、いずれも、一審被告への預金ではない。)。

(1) 上福岡グロリアハイツ(丙A第七ないし第一〇号証)

「上福岡グロリアハイツ管理組合」(さくら銀行積立預金及び太陽神戸三井銀行積立預金)

「上福岡グロリアハイツ管理組合管理代行(株)栄高」(協和埼玉銀行定期預金)

(2) アルベルゴ武蔵小山(丙A第一二号証)

「アルベルゴ武蔵小山管理組合代表 岡本憲明」

(3) 啓明宮前橋マンション(丙A第一五、一六号証)

「啓明宮前橋マンション管理代行(株)栄高」(城南信用金庫)

(4) アンバサダー調布(丙A第一八ないし二〇号証)

「豊栄アンバサダー調布管理組合理事長石川斉」(富士銀行積立式定期預金及び定期預金)

(5) アンバサダー洋光台(丙A第二三号証)

「株式会社栄高アンバサダー洋光台」(さくら銀行定期預金)

「株式会社栄高洋光台口」(三井銀行定期預金)

(6) アンバサダー横浜松見町(丙A第二四号証、第二六号証)

「アンバサダー松見町管理組合管理代行(株)栄高」(協和銀行定期預金)

(7) 浦和ときわマンション(丙A第三一号証)

「カ)エイコウ ウラワトキワマンション」(武蔵野銀行定期預金)

5  栄高では、第一〇期(昭和五九年九月一日から昭和六〇年八月三一日)までの決算報告書においては、各マンションの管理費の剰余金等を原資とする定期預金を貸借対照表の資産の部に計上し(ただし、各マンション名を付記していた。)、各マンションの保証預り金、積立金、駐車場積立金、管理金預り金等を「マンション管理預り金」として貸借対照表の負債の部に計上していたが(甲第六号証の一ないし四)、顧問の公認会計士からそのような経理処理は適切ではないとの指摘を受けて、第一一期(昭和六〇年九月一日から昭和六一年八月三一日)からの決算報告書では、右定期預金を資産として計上せず、「マンション管理預り金」も負債として計上しないこととした(甲第一一号証、第一三ないし第一八号証)。

6  管理委託契約においては、栄高は毎年一回八月末日に過去一年間の管理事務の決算をするものとし、その会計報告並びにその他の主たる管理事務に関する報告を一一月末日までに行うものとする、と定められており(甲第五号証の一ないし九)、栄高は、毎年、各マンションごとに「管理費収支決算書」等を作成して、全区分所有者に配布するとともに、管理組合のあるマンションについては、各マンションの管理組合の決算期ごとに各管理組合の総会において報告を行い決議を得ていた。

右書面には、管理費収支決算書、修繕積立金収支決算書及び貸借対照表が含まれており、そのほかに、マンションによっては、水道料金決算書、給湯料金決算書が含まれている。

貸借対照表の資産の部には管理費の余剰金等を原資とする定期預金も記載されている。

また、管理費収支決算書の収入の部には前期繰越金、管理費、駐車場使用料等が記載され、支出の部には管理員業務費、事務管理費、清掃業務費、エレベーター保守費等の種々の費用が記載されている。

修繕積立金の収入の部には前期繰越金、修繕積立金のほかに定期預金利息が計上されており、支出の部には修繕工事の費用が計上されている(<証拠略>)。

なお、甲第七号証の一ないし九の中の貸借対照表は、本件相殺及び本件弁済後の平成四年一一月三〇日現在で作成されているために、本件各定期預金のうちにはこれらの貸借対照表には記載されていないものがあるが、本件各定期預金が記載されているものは以下のとおりである。すなわち、甲第七号証の三には目録3の定期預金が、第七号証の四には目録4の定期預金が、丙D第一号証の二には目録5及び15の定期預金の合計額である四八八万六三〇七円が、丙D第一号証の三には目録15の定期預金が、甲第四七号証の一、二(丙E第一、二号証)には目録12の定期預金が、それぞれ記載されている。

7  <証拠略>によれば、以下の事実が認められる。

(一)  栄高は、マンションに管理組合が結成され、あるいは管理組合法人が設立されて、管理組合又は管理組合法人から管理費等を原資とする栄高名義の預金の名義変更を求められたときは、これらの預金は管理組合等に帰属する預金であるとの考えのもとに、これに応じて、管理組合等の理事長名義に名義を変更し、印鑑を変更していた。このようなマンションはかなりの数にのぼった。

管理委託契約を解除されたことに伴い、管理組合に預金を返還した例もある。

(二)  平成四年一一月六日、新聞等で栄高の親会社である豊栄土地開発の自己破産の申立の事実が報道されたところ、同日以降、栄高が管理していた三四のマンションのうち、管理組合が結成されていた一八のマンションの管理組合の代表者等が栄高の本社事務所を訪れるなどして、管理委託契約の解除を通告し、管理費等の交付を要求した。

栄高は、管理費等が入金されていた定期預金及び普通預金の通帳と栄高の届出印を押捺した預金払戻票又は口座解約届を交付したり、あるいは右預金口座から払い戻して保管していた現金をそれぞれ交付した。栄高としては、これらの預金は各マンションの資産であり、返還の要求があれば当然これに応じなければならないと認識していたものである(なお、丙A第二号証の一の調停申立書には、栄高は管理組合代表者等の要求に抗することができないまま預金等を交付したとの記載があり、右申立書において一審原告は、右交付は破産法七二条四号に該当する、と主張しており、丙F第五号証の栄高の代表者の破産裁判所宛ての陳述書にも、栄高の社員は預金通帳の返還要求に抗しきれず、一時パニック状態になってしまった、との記載があるが、右丙F第五号証には、返還した預金通帳は管理組合や区分所有者に実質上帰属すると思われるとの記載があり、栄高がこれら預金は管理組合ないし区分所有者に帰属するものであると考えていたことは明らかである。)。

(三)  また、栄高の総務及び経理担当の取締役であった岡本憲明は、豊栄土地開発の破産申立によって栄高の預金が銀行等によって差し押さえられ、マンションの管理業務に支障が生ずることを回避するために、管理組合のあるマンションの大部分について、平成四年一一月五日、「〇〇管理組合代理人岡本憲明」という名義の普通預金口座を開設した。

三  以上認定の事実に基づいて本件各定期預金の預金者が誰であるかを検討する。

1  預金者の認定については、自らの出捐によって、自己の預金とする意思で、銀行に対して、自ら又は使者・代理人を通じて預金契約をした者が、預入行為者が出捐者から交付を受けた金銭を横領し自己の預金とする意図で預金をしたなどの特段の事情がない限り、当該預金の預金者であると解するのが相当である。

2  本件各定期預金の原資である管理費等は、もとより栄高固有の資産ではなく、管理規約及び管理委託契約に基づいて区分所有者から徴収し、保管しているものであって、栄高が受領すべき管理報酬も含まれてはいるが、大部分は各マンションの保守管理、修繕等の費用に充てられるべき金銭である。

区分所有法によれば、区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体(以下「管理組合」という。)を構成するものとされ(三条)、各共有者は、その持分に応じて、共用部分の負担に任ずるとされている(一九条)。すなわち、区分所有建物並びにその敷地及び附属施設の管理は、管理者が行うのであって、その管理の費用は区分所有者が負担すべきものである。したがって、区分所有者から徴収した管理の費用は、管理を行うべき管理組合に帰属するものである。管理組合法人が設立される以前の管理組合は、権利能力なき社団又は組合の性質を有するから、正確には総有的又は合有的に区分所有者全員に帰属することになる。

したがって、本件各定期預金の出捐者は、それぞれのマンションの区分所有者全員であるというべきである。

3  管理費の剰余金等を原資とする定期預金は、栄高において、自己の預金、資産であるとは考えておらず、栄高はこれを各マンションの区分所有者ないし管理組合に属するものとして取り扱っていたものである。このことは、多くの定期預金の名義に各マンション名が付記されていること、栄高の決算報告書及び各マンションの管理費収支決算書等の記載内容、栄高の破産の前及び破産の直前に管理組合に返還した定期預金もあること等の事実から明らかである。

4  本件各定期預金は、栄高が、管理費の剰余金等が一定の金額に達したときに、その独自の判断と裁量でこれを定期預金に振り替えていたものである。区分所有者は、管理費等を栄高名義の普通預金口座に振り込むだけであって、その管理費の剰余金等がいつの時点で、どのような金融機関の定期預金に振り替えられるか等の具体的な事実は認識していない。

しかし、普通預金としてよりも定期預金として保管することの方が区分所有者にとって有利であることは明らかであり、普通預金から定期預金への振替は区分所有者の意向に沿うものである。また、区分所有者は、管理費の剰余金等が一定の金額に達すれば、これが定期預金に振り替えられることになっているという仕組み自体は知っていたものと推認される。そして、区分所有者は、定期預金の預入から遅くとも一年以内の決算報告において、本件各定期預金がされていることを具体的に知ったのであり、区分所有者がこれに異議を述べたことを認めるに足りる証拠はないから、区分所有者は、この時点に至って、本件各定期預金をしたことを是認し、引き続き定期預金とすることを了承したものということができる。

すなわち、この時点以降、区分所有者が本件各定期預金の預入をする意思を有することが具体的に明確になったものである。

5  本件各定期預金の預入行為者は栄高であるが、栄高が管理費の剰余金等を横領し自己の預金とする意図で本件各定期預金をしたことを認めるに足りる証拠はない。本件各定期預金は、栄高の一審被告に対する借入金債務の担保として差し入れられていることは当事者間に争いがないが、この事実から直ちに栄高に右横領の意図があったと推認することはできない。

そして、区分所有者と栄高との関係(栄高は、管理委託契約に基づく受託者であると同時に、区分所有法第四節に定める管理者であり、区分所有者を代理する立場にある。)と、右に見たとおり区分所有者に預入の意思があると認められることを併せ考えると、栄高は区分所有者の使者として本件各定期預金をしたものと見るのが相当である。

6  本件各定期預金の一部の少なくとも書替前の預入関係等の書類には預入人の名義として栄高のほかにマンション名が付記されているが、書替に伴ってこの名義がどのように推移したのかは明らかではない。しかし、少なくとも、区分所有者の支払った管理費の剰余金等を原資とする定期預金の名義は必ずしも栄高名義とはされていなかったことは前記認定のとおりであり、本件各定期預金の名義は栄高であると断定することはできない。

ところで、預金者の認定については前記1の基準により判断するのが相当であり、預金の名義がどのようになっているか、銀行側が預金者についてどのような認識を有していたかは右判断を左右するものではない。

もっとも、一審被告が民法四七八条の適用ないし類推適用により本件相殺及び本件弁済が有効である旨の主張をする場合には、預金の名義等も問題になると考えられるが、本件においては一審被告はこの主張をしていない。

7  以上のとおり、本件各定期預金の預金者は、各マンションの区分所有者の団体である管理組合であり、区分所有者全員に総有的ないし合有的に帰属すると認めることができる。

そして、管理組合法人と管理組合とは、法人格を取得する前後において、団体としての同一性が維持されるから(区分所有法四七条五項参照)、参加人らのうち管理組合法人が設立されている参加人は、本件各定期預金の預金者となる。

管理組合法人が設立されていない参加人は、権利能力なき社団であると認められるから、本件各定期預金について、その名において訴訟の追行ができる。

8  一審原告は、本件各定期預金は信託財産であると主張する。

しかし、区分所有者は栄高との間で管理委託契約を締結し、栄高は管理費等の金銭の処理、収納保管という経理業務を受託しているが、信託法一条にいう財産権(管理費の剰余金等)の移転その他の処分をする契約がされているということはできない。すなわち、信託法一条において明らかにされているように、信託契約には財産権変動の側面(「財産権の移転其の他の処分を為し」)とともに委任的側面(「他人をして一定の目的に従い財産の管理又は処分を為さしむる」)を含むものであるが、前記認定のとおり栄高は本件各定期預金を栄高の財産であるとは考えておらず、そのように取り扱ってもいないのであるから、区分所有者と栄高との間の契約については、この財産権移転の契機を見いだすことができないといわざるをえない。

したがって、一審原告の主張は採用することができない。

四  本件各定期預金のうち、目録2ないし4の定期預金を除く定期預金については、参加人らに帰属することになるから、参加人らの一審原告及び一審被告に対する各請求はいずれも理由があり、一審原告の一審被告に対する請求は理由がない。

目録2ないし4の定期預金(独立当事者参加がされていない定期預金)については、一審原告は信託財産であると主張し、一審被告は栄高に属する預金であると主張するところ、信託財産であるとする一審原告の主張は採用できない。そして、一審被告の主張するとおり、栄高に属する預金であるとすれば、本件相殺及び本件弁済によりその返還債務は消滅していることになる。いずれにしても、一審原告の目録2ないし4の定期預金についての請求は理由がない。

五  よって、以上の趣旨に従って原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 矢崎秀一 裁判官 西田美昭)

裁判官 筏津順子は転補のため署名押印できない。

(裁判長裁判官 矢崎秀一)

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